第1章

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 蛮声を一身に浴びながら、ジャムオジが前へ押し出される。ヌルゴラを見つけた当初までは、皆と同じく復讐の怒りに血を沸き立たせていたが、びっこ引き、子供のように頭かかえるその姿を見て以来、その胸はもう冷え切っていた。  「いいの持ってんじゃねえか。しっかりやれよう」  遠く背後の方からやっかみまじりの檄が飛ぶ。わざわざキャンプから大きめの石を持参していたジャムオジではあったが、今はそれが極端に重く感じられた。  眼下に横たわるぐしょぬれのヌルゴラからは、獲物一般、いや自分らとも何ら変わらぬケダモノのにおいが漂った。視界がゆがむ。それふりきるように、両手に挟んだ石を頭上に掲げ上げた瞬間、すこしだけ敵の瞼がひらき、ジャムオジはその瞳をみた。  一瞬の静寂とどよめきと、それから怒号。  ジャムオジはしくじった。打点をではない。投げられなかったのである。足もとに落とした石の前で茫然立ち尽くすその体は、幾人もの男らにつまみあげられ、脇へ放り投げられた。そしていくつもの打撃音。間もなく、大挙して獲物に押し寄せた男たちの間から、手柄についての言いあいが聞こえ出していた。  この顛末は、またたくまにズルンゴ全体に広まった。  ソボロとデンブの係累からはしばらく、  ―臆病者!  ―敵の味方は敵!  ―来世はジャジャイ蚊!    猛烈に非難を浴びたし、友人でさえも、  ―後ろの方でよくみえなかったら一応もいちど聞くけどさ、おまえ、ほんとに泣いたの?  などと、日に三度は同じことを問うてきた。確かにジャムオジは人と比べると、涙を流すタイミングが少し変わっていた。空の片側をうす紅にそめながら地平線をにじませ沈んでいく太陽を見ると、なぜだか涙がこぼれおちることがあった。血にぐしょぬれたヌルゴラの瞼の奥にみた、恐怖ともあきらめとも無縁の、あの深くにぶい光。ニコタマガエルの煮汁のように濃くクッキリとして、気の利いたことわざをいう度に、ますますぎらつき大小する人間達の目とは違う、川底の石のような眼。ジャムオジは涙こぼしたわけをうまく言葉にできなかったが、きっと夕陽を見るのと同じようなものなのだろうと思った。
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