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一難去ってまた一難、とはこのことだ。
「というわけで、奏太、貴方を“餌”にして彼を“釣り”ます」
「……そう言われると、なんか嫌だな」
仲間だった彼にそう言われて僕は呻く。
長い銀髪の神々しさも感じられるような綺麗な男性。
それもそのはず。
だって彼は……と考えているとそこで、
「貴方の事は、“彼”は大好きですからね。貴方が歩いているだけで、入れ食い状態です」
「……それはそれでどうなんだろう。僕、そんな自覚がない」
そう返すと今度は僕と同じ黒髪に緑色をした友人が、
「奏太は鈍感だからね。どこからどう見ても……」
「う、うぐ、その話は後にして……“彼”の欠片が幾つもの“世界”を作っている?」
そう聞くと、銀髪の人が頷いて、
「“彼”も強い力を持つ人物ですから、五つの欠片の一つ一つが“世界”を形成しているのです。……“彼”が夢を見ているような状態ですからそれに引きずられて、奏太がその世界に入るとおそらくは……そこの“住人”になってしまう」
「そうなるとどうなるのですか?」
「その世界にいる間は“その世界の人物”のような感覚に陥ってしまうので、特殊能力(チート)の使い方も自分が“奏太”だったことも“忘れてしまう”かもしれません。一時的にですが」
「……え?」
「一応は私達の方でもサポートします。いつもではありませんが連絡も取れます。……これをつけていてください」
そう言って碧い石のついたペンダントを渡してくる。
“彼”と同じ目の色だ。
そこで銀髪の人が、
「私達は現在この世界にとどまらないといけない状況です。ですからあなた一人に全部お任せしなければならない。“彼”は貴方を気に入っているので無碍には扱わないでしょうが、どうすれば“彼”が“彼”として“目を覚ます”か分かりません。下手をするとその世界に囚われてしまう可能性があります」
「うん、でもこれで時々連絡をしてくれるんだよね?」
「もちろんです」
頷く仲間の言葉に僕は頼りにしているからと返して、銀髪の人が呼び出した白い魔法陣の中に入る。
「では、行ってきます!」
そう僕が告げる時をつけてねと彼らは返す。
そして目の前の白い光に包まれて……かすかに残っていた会話は僕の中で消えたのだった。
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