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仕事帰りにちょくちょく寄る個人経営の居酒屋がある。はじめは一人で飲んでいたが、そのうち常連客と一緒に飲むようになった。
「しかし、加瀬ってのは悪いやつだねえ」
カウンターで隣に座ったクリーニング屋店主、水野が言った。元気で優しいお爺さんなのだが、政治を語り出すと、時の首相、加瀬久造に対して非常に辛口になる。
「そんなに悪いことしていますか?」
私はすっとぼけて尋ねてみた。
「悪いも何も、テレビや新聞見てご覧よ。自分の友達ばっかりひいきしやがって」
彼が言っているのは二つの学園問題の話だろう。かなりの安値で国有地が学校法人に払い下げられたことと、地方の経済特区で獣医学部を持つ大学設立が異例の早さで承認されそうな話である。
マスコミの言い分そのままに政治を私物化しやがってと、延々語る水野を見ながら、私はある種の無力感にとらわれていた。このへんがテレビや新聞からしか知識を得ない世代と、ネット中心に情報を得ている我々との底知れぬ断絶だ。
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