Scene01『囲まれた未確認生物たち』

2/18
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
Scene01『囲まれた未確認生物たち』 国民的英雄であるイエティ白山が興した格闘技団体『A.A』は数年前まで隆盛を極めていたが、彼が試合中の事故で亡くなって以来衰退の一途を辿った。英雄殺しとバッシングを受けた対戦相手は自殺。追い打ちをかけるように湧いて出る所属選手のスキャンダルやトラブルのせいで客足は完全に途絶え、選手は次々に去って行った。 最後に残ったのはたった二人。入団して日の浅い若手選手・グレとイエティ白山の一人息子・ユーマである。 「グレさん、だっけ」  部屋に唯一残された社長椅子に腰掛けながらユーマは言った。英雄の後継者、プロレス団体の社長。そんな肩書におよそ似つかわしくない子供のような彼である。高いスーツに「着られている」貧相な体は、ユーマの現状そのものだった。 「これ、芸名なの?」 「この業界ではリングネームといいます。先代社長から頂きました」 グレはなるべく不満を表に出さないよう気をつけながら返事をした。呼び出しておいてだっけはないだろう。     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!