Scene01『囲まれた未確認生物たち』

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グレは後ろでまとめた長髪を不機嫌そうに跳ね上げた。ほとんどの一般人が「関わりたくない」と思うようなガラの悪いグレだったが、純粋培養のせいで危機管理能力が欠如しているユーマは構わず話を続けた。 「ふーん。本名は?」 「先代に拾っていただいたときに本名は捨てました。グレで結構です」 今お前に従っているのは先代の恩があるからだ、と言外に含ませたがどこまで伝わっているのか分からない。 「グレてるから、グレ?何でもいいけど「結構です」は目上の人間には使えないから。次から気をつけて」 グレは反射的に殴りかかりそうになるのを奥歯を食いしばって耐えた。数々のスキャンダルで世間を賑わせた『A.A』の最後が、社長撲殺事件で締めくくられるなんて笑えない。 「当分オレたちは『B.B』と提携するワケだけどさ、グレさんって戦えるの?あんまり強そうには見えないけど」 次から握力を測るときは今日の出来事を思い出そう。グレはできるだけポジティブになることで自身の暴力衝動をやりすごした。 国民的英雄はその実力と人望で一時代を築いたが、息子を躾ける才能はなかったようだ。吸収合併を提携と言うその能天気さ、中学生並みの自分の体格を棚に上げて格闘家に「弱そう」と言い放つ無神経さを見れば、他の社員が愛想を尽かしたのも納得がいく。 「グレさんは一週間後『B.B』のリングに上がってもらうから。相手は向こうのエース」 「え」     
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