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「ぱぱ、ろうかにおゆが漏れてる」
「ああ、お湯の線を閉め忘れてた」
「はあ!? ここの風呂、全自動じゃねえかよ」
「ぱぱ、洗濯機ガンガン言ってるよ」
「あああ、大変だ。靴を洗ってたんだ」
「おま、靴洗える洗濯機は、狭いから持ってこれなかったろうが。っち」
実朝さんの慌てて走り回る足音と清伍くんの怒鳴り声に、義仲君が不安そうにおにぎりを見つめていた。
「……」
今の隙に部屋に逃げ込めば良かったのに、俺はなぜかその焦げ臭い部屋の中に入ってしまっていた。
「ぞうきんはありますか?」
「……先生」
実朝さんが高給そうなタオルで床を拭いている。
「俺がしますから、不安そうな義仲くんの傍にいてあげてください」
義仲君のためだと、暗に言い訳がましく言っているような気がしたが、しょうがない。
他人に関わらないように一人暮らしをするために、最初だけ。最初だけだ。
ぞうきんは無かったようで、俺は自分の部屋に帰ると段ボールの上に置いてあったぞうきんを持って戻ってきて床を拭いた。
そしてキッチンを見ると、焦げ臭い原拠の鍋を発見。
鍋の中は焦げて真黒で形を持ってはいなかった。
「野菜の水分だけでカレーを作ろうと思って」
ははは、と実朝さんが笑う。
「水分って野菜は何を入れたんですか?」
「玉ねぎとじゃがいもと人参だよ」
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