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「え……」
「ジジイ! 水分って玉ねぎしかねえだろうが。二度と勝手にすんなよ!」
ボロボロになった革靴を持った清伍くんが実朝さんを睨みつけている。
「俺のお気に入りの鍋だったのに。ジジイは料理どころか家事もできないんだから何もすんなよ」
ぷりぷりと怒って真黒な鍋を洗い出した。
あの鍋、まだ使えるんだ。
呆然としていた俺の横で、申し訳なさそうに小さくなった実朝さんが頭を掻く。
「恥ずかしながら、ずっと仕事仕事で家事はヘルパーさんとか清伍がしてくれていてね。でも仕事が忙しくてマンション工事ギリギリになっても、移動先を決めていなくて」
「じいじの家はとおすぎるもんねー」
「そうだねえ。もういっそ一戸建て買おうかなー」
「寝言は寝て言え」
「あの通り、私が忙しかったから清伍がしっかりしちゃいましてね」
おおらかな言い方だけど、しっかり、と言うより捻くれてる。
他人に興味を持たないと決めている俺よりも、彼の方が頑固そうだ。
「風月先生も、こんな白くて綺麗な手で掃除させてすいません」
ぞうきんで拭いていた俺の手を、実朝さんが両手で包み込んだ。
「え、わ。汚いから触らないでください」
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