一、 一人暮らし始めます!

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「ここの雲丹、全くミョウバンの味がしないで素材そのものって感じが美味しいですよねえ。ほら、こっちなんて口の中に入れた瞬間溶けましたよ。トロ」 お魚は大好きだし、さっき買ったビールに合うだろうけど、飲めない。 飲むと解放感から、耳が出てしまうから。 尻尾は出ても、丸くて小さいから気づかれにくいけど、耳は誤魔化せない。 「先生、食べてますか? 何が好きです?」 顔を覗き込まれて、思わず赤面する。 人が嫌い。関わりたくない。けれど、この人みたいに優しい人なら俺を捨てたりしなかったんだろうなあ、と思わずにはいられない。 しかも、極上に甘い香りがする。開放的に耳を出してしまいそうな、匂いがする。 「この雲丹、どうぞ。ほら、あーん」 「ひゃ、え、やっ」 俺の口まで、実朝さんがお寿司を運んでくださっている。 えええ、これ口を開けなきゃいけないの? 首を傾げて、食べてと甘えてくる様子が、もうめっちゃくちゃに可愛いよう。 「せんせい、はい、あーん」 「え」 わざと可愛らしい声で、フォークにささったガリを差し出された。
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