一、 一人暮らし始めます!

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おじさんたち以外に拾われていたら、きっと大変なことになっていたって聞いた。 三毛猫の雄は血統書つき。育てたいという金持ちや特殊な性癖の人間が、養子縁組に莫大なお金を払う。拾った人は、そのために迷子として真っ先に警察に届けることはまずない。  噂だけど、ね。そのため本当に好きな人にしか自分の姿は見せないらしい。 一生本当の自分の姿を見せない、または見ないまま人間として過ごせる人の方が多い。 俺は、記憶がないけれど捨てられた時にはすでに自分の猫の姿をおじさんたちに見せていた。 これは、――俺が捨てられる前に猫の姿をその人に見せていたということ。 運命の、本当に好きだった人にだけしか見せないはずなのに。 要するに、俺は好きだから猫の姿を見せた。 けれどその人は、猫の姿の俺を見て捨てた。 一方的に、運命だと俺は信じていたに違いないのに。 本当、哀れで笑ってしまうよ。 シャワーを烏の行水のごとく終わらせ、髪を拭きながら耳を見て笑ってしまった。 「――おい、先生。おい、寝たのか?」
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