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――
「……じゃま」
箒をもって、センチメンタルに昔を思い出していたら、後ろから舌たらずな子どもの声がして振り返った。
「そうじしないなら、じゃまだよ」
「よっちゃん」
愛らしいバラ色の頬、くるんくるんした色素の薄い茶色の髪、大きくて綺麗なビー玉のような瞳。
天使のように可愛いその男の子は、俺のことを睨むとため息を吐いて砂場の方へ戻っていく。
砂場から、俺の方角は幼稚園の入り口になる。
きっとお父さんが迎えに来るか見えないから、邪魔なんだろう。
それを言うためだけに砂場から出てきて、それを言うためだけに俺を睨みつけたのだ。
五城楼グループというホテル経営から高級日本料理店、アロマサロンなどなど様々な事業に手を伸ばしている日本有数の名門。
なぜ五城楼家のお子さんが、こんなおじさんおばさんが経営している小さな幼稚園に通っているのか分からない。
けれど、彼になぜか嫌われようとも、別にいい。
義仲くんのお父さんは、理想の父親を絵にかいたようなダンデイで渋くて笑うと目が細くなって、とても優しそうで知的で、――と褒める場所しかないような素敵な人だ。
彼が義仲くんを迎えに来るときに挨拶するのが、幸せだったりする。
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