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「くっそ。早く帰るつもりだったのに、最近仕事が多いっての」
「……おかえりなさい。今日はお外で元気に走り回って疲れて眠ってますよ。かけっこ、一番でした。あ、こちら荷物です。明日はお弁当ですので」
「おい、なんで目線合わせねえんだよ。襲うぞ、こら」
「ひっ」
早口で報告しつつ職員室へ走る準備をしていたのを気づかれた。
思わず身構えると、『悪い』とまた謝られた。
「さっき、向こうで痴漢があったらしくて野次馬で渋滞しててさ。危ないから車乗ってけよ」
「い、いや、いいです。保護者のお車になんて」
「ジジイのには乗ったよな? あとあんたが痴漢に触られるなんて俺が耐えられねえんだよ」
「痴漢も男なんかに触りたくないでしょうから、大丈夫です」
「……あんたは、綺麗だから。乗らねえとジジイにあることないこと言ってやるぞ」
此処からマンションなんて歩いてすぐなのに、どうしてそんなに頑ななんだろうか。
これが好きな人に何かしてあげたい精神なのだとしたら、ちょっと理解してあげられない。
「俺、優しくされても好きにならないよ。それでもいいの? 時間の無駄だよ」
冷たく突き放す。次はないように。
なのに清伍君の目には迷いがない。
「だから、あんたが痴漢に会うのが耐えられない。優しさじゃねえよ、俺が嫌なだけ」
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