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ただ自己嫌悪で顔を上げる気力もなく、ただその人の靴を見た。高そうな革靴。
俺の、仕事で散々走り回って汚れたスニーカーと大違い。
「ねー、なんでそんな元気ないの? 幼稚園の先生ってそんなに大変? それともおじさんおばさんに虐待されてるのー?」
「……え」
顔を上げると、サングラスに顎髭の男が、俺をニタニタと見下ろしている。
身長も体も全く勝てそうにない。それにすごく嫌な笑い方だ。
「なんで俺のことを知ってるんですか」
「だって君を捨てるように頼まれたの、俺だし」
「は?」
「超プレミア、血統書付きの三毛猫の雄。本当の三毛猫の雄は遺伝子がおかしくて繁殖できないらしいんだけど、君はできるの?」
「し、知りません。ってか、貴方、なんなんですか。何が目的て――」
言い終わらないうちに肩を抱かれた。
後ろから羽交い絞めされ、逃げ出そうとしてもびくともしない。
「やめ――っ」
「なんであの人は捨てたんだろうかなって。売ったら高いんだろ、君」
「離せ、なんなんだよ、離せよ」
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