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「っち」
「ごめん。行くから、行くから」
「いや、違う。もっと早く来てやれなくて悪かったって。おい、立て。起たねえと足も折るぞ、てめえ」
清伍君に胸ぐらを掴まれて立った彼は、折られた手を押さえてぐしゃぐしゃに泣きはらした顔で大人しく着いてくる。それが返って不気味だった。
「こいつ、警察に突き出してくるからそこに居ろ。いいか、変な奴が来たら噛みついたり、股間蹴ったり絶対に防御しろ、――俺が絶対帰ってくるからそれまでいいな」
「清伍くん……」
ぶっきらぼうで不器用な彼の言葉が優しくて、涙が滝のように溢れて視界を奪った。
どうしてだろう。怖かった彼の言葉が、安心する。
あたたかくて優しくて、胸が熱い。
「乙竹!」
その声に、俺と清伍くんが顔を上げる。
駐車場の入り口で止まった車から、秘書の女性が出てくると続けて実朝さんも出てきて俺たちの方へ駆けてくる。
「どうしたの? 乙竹くんと清伍って顔見知りでしたっけ?」
呆然としつつもなぜか実朝さんも焦っていた。
「乙竹って、こいつか? こいつが誰だってんだ」
「えっと……五城楼家の分家の分家というか、その秘書の精華さんのお兄さんと言いますか」
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