1045人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄ちゃん、もうやめて!」
「こいつが無理なら、義仲を連れ去るぞ!」
「お兄ちゃん!」
「……いい加減、調子に乗ってんじゃねえよ」
ナイフの先端を握り、清伍君がその男の首を掴むと持ち上げた。
「俺の大事な家族を、大事な先生を、薄汚いてめえが好きにしていいわけねえだろ。殺すぞ」
「あ…あが……っ」
白目を向き、泡を吹いた男が倒れるのと警察が来るのは同時だった。
「せ、清伍くん! 血、血がっ」
「うるせー」
駆け寄った俺を、清伍君は振り払う。
「てめえも男なら、自分の身ぐらい自分で守れよ! ――心配で、危なっかしくて、こっちが死にそうだ、馬鹿が!」
「……ご、ごめん」
怒鳴られて怖いはずなのに、なんだか優しくて、言葉はきついのに嫌じゃなかった。
「ありがとう、――清伍くん、ありがとう」
じわりと広がった涙と、パトカーのサイレン、そして騒がしく集まる野次馬の声。
その中で左手から血を流しつつ、俺を真っすぐ見る清伍君がいた。
……視線が逸らせなかった。
「清伍、車に乗りなさい。医者に行こう。……うわあ、これは縫うんじゃないかな」
「ってぇ。くそ。超だせえ」
「すいません、被害者の方ですか、話を聞きたいので手当てを終えてからお話を。連絡先と病院名と」
「分かってる」
最初のコメントを投稿しよう!