変化

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「……おはよう」  僅かに間を空けて、俺は彼女に言葉を返した。  すると彼女は、満足気な表情を見せて言った。 「それにしてもいい天気ですね」 「ぇあ、そっすね」 これから面倒くさい授業が始まろうというのに、イスに腰掛けたまま、彼女はとても嬉しそうに足をバタつかせていた。それこそ、恋にうつつを抜かす乙女のように。 「それで、考えてくれました?」 「え、あ、でも、その、昨日の今日だし」  その整った顔をグイっとこちらに近づけて、鼻が接触しそうな距離で彼女は俺に問う。少し動けば唇が触れ合ってしまう程の近さに、思わず呂律がおかしくなる。 「でも、好きになったものは仕方ないでしょう?」  彼女は、事も無げに言ってみせた。俺のことが好きだと。どれだけ贔屓目に見ても顔も性格も身体能力も知能も平均に満たない、何の取り柄もない俺のことを好きだと。  そう。昨日の放課後、体育館裏に呼び出された俺は、彼女から愛の告白を受けた。本来であれば、こんな美少女と接点を持つことすら有り得ないというのに、あまつさえ告白までされたのだから、それはもう驚いたなんてものじゃなかった。  けれど、俺が最も驚いているのはそこではなかった。  彼女とお近づきになれたことより、告白されたことより、こうしてアプローチを受けていることより、何よりも俺が驚愕しているのは別にある。 「ん? どうしたの?」  俺が猜疑の視線を無言で向けても、彼女は嬉しそうに、その澄み切った目で俺を見つめ返してきた。 「お前……本当に、同一人物なのか?」  俺が何よりも驚嘆しているのは、この少女が、つい先日までは俺でさえ同情してしまうほどの、超が付くほどのどブスだった、ということだ。
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