入学式、それから

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「はぁ」  一時間目の授業開始時間が差し迫ったことを示す時計の長針を憂い、ため息をつく。  月曜日の入学式から四日が過ぎ、クラスメイトはそれぞれにグループを作り、教室の所々で様々な雑談に興じていた。一方で、俺は誰と喋るでもなく、悠々と本を読んでいた。  訂正。喋る相手がいないから、渋々一人で本を読んでいた。 「侘しい」  そう。俺は、いわゆるぼっち。彼女が云々、恋愛が云々なんて話以前に、まず友達と呼べる者がいなかった。  本日、高校生になってから四日が経過して五日目を迎えた。果たして、まだ四日しか経ってないのだから友人がいなくても仕方ない、と考えるべきなのか。それとも、もう四日が経過したのに友達が一人もいない、と考えるべきなのか。  自分でいうのも気が引けるが俺は性格が歪んでいる。そんな俺がこんな危機的状況で前向きな考えをするというのは、アミラーゼなしで針に糸を通すようなものだ。  幼少期から性格は歪んでいたし、級友から良い印象を受けていないことは重々承知していた。それでも、友達百人とはいかないまでも、まったくの一人ぼっちというわけでもなかった。  では何故、俺は高校生活一ヶ月にして、友達の一人もできないのだろうか。  思い当たるフシは一つ。初日の自己紹介だろう。 「はじめましての方ははじめまして、それ以外の人はこんにちは! あ、まだ朝だからおはようでしたね! 板橋真人です! 趣味は効きガム! 好きな言葉はマンコ・カパックです!」  というのが、高校一年生になって最初のホームルームで俺が発した最初の言葉だった。 高校生活における第一声は自己紹介で、自分の名前と趣味と好きなものを何でもいいから述べろ、というものだった。たしかに、誰が初対面の奴の名前と趣味と好きなものなんて知りたいのかと教師に疑義を呈することもできるが、それ以前に無難に乗り切ればいいだけである。こんなものは、新しいコミューンにおける形式的な通過儀礼でしかないのだから。  ところがぎっちょんてれすくてん。そこはさすが俺。俺自身の予想を超える俺は、普通に自己紹介することもままならなかった。
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