入学式、それから

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 無難なことを言っては他のクラスメイトと同じレベルではないかという気持ちと、何か爪痕を残さねばと勝手にプレッシャーを感じたことによるこのまとまりもなければ品性もない発言は、今振り返っても我ながら意味がわからない。もちろん、意図はある。「クラスの半分とはいかずとも、五分の一くらいの人は笑ってくれるはず。これで笑わない有象無象より、俺の感性を理解できるマイノリティと友達になった方が楽しいに決まっている」などと、ひねくれている上にただでさえ稚拙な思想であるばかりか、言語力がその思想にすら追いついていないという多層的な暗愚魯鈍で軽挙妄動な言動である。これでは板橋ではなく痛橋である。  案の定、自然の摂理と言わんばかりに先生はもちろんのことクラスメイトも誰一人として笑ってくれなかった。幸か不幸か先生は特に何事もなかったように次の生徒を指名してくれたので、致命傷は負いつつも死ぬことはなかった。もしも先生が下手に気を遣って掘り下げようものなら、間違いなく悶絶の末に失禁していただろう。つまり、社会的に抹殺されていた未来があったということ。抹殺というよりは、盛大な自死だが。先生の行動いかんで俺が死ぬ世界があるというのだから、量子力学とは不思議なものだ。  そんなわけで、入学早々から「なんだかよくわからないが避けておきたい奴」というレッテルを貼られてしまった。もちろん、被害妄想の域を出ない邪推ではあるのだが、九分九厘適切な判断であろう。
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