消してしまう記憶

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消してしまう記憶

 消えない記憶を消すという矛盾に戦いを挑む。食卓以外の役目をしていなかったテーブルが今日からしばらくの間、戦場にもなるのだ。  四十年連れ添った夫を見送ってようやく四十五日が経った。まだ六十五歳で突然の死だった。病名もついたが夫はもういない、病名などどうでもいい。  葬儀やその他の手続きで落ち着くまでしばらくかかり、やっと考える時間の余裕ができた。  納骨は終わっていないので義理の両親と同じ仏壇に収まってもらっている。  仏間は娘や息子が孫たちと泊まりに来る以外に使い道がないので簡単な掃除と仏壇の手入れをするだけだ。特に気に留めることはない。  思えば夫に対してずいぶん我慢したものだ。  食卓に置いた一冊の日記の最初のページを開いて思い出す。  最初のころは辛い悲しいと嘆きの感情が文字に乗って並んでいる。まだ夫に愛情が残っていた証拠だ。  コンビニで二つ買ってきた消しゴムの一つの包装を破った。
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