消してしまう記憶

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 日記を書き始めたきっかけは辛い気持ちを吐き出したかったからだ。もらったままで使うことなく眠っていた日記帳に気持ちをぶつけたのが始まりだ。  毎日書いているものではなく日付もない。ただ感情が爆発する前に書きなぐっていった、そんな感じの文字の羅列だ。  数ページめくって初めのページに戻った。  新品の消しゴムで乱れた文字を端からゆっくりと消していく。  ページを読み返しながら鉛筆の文字を消していく。一緒に嫌な記憶も消してしまいたいのだ。  これを書き始めたころ、夫はまだ現役で働いていた。部長という職位を与えられ、仕事に没頭し、家庭を顧みることがなかった。
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