消してしまう記憶

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 ちょうど息子が大学受験で神経をピリピリさせ、私に当たり散らしていた時期だ。  話を聞いてもらいたい私のことなど気にも留めず、「お前は家庭を守るため専業主婦でいるのだろう」と言われたと文字が記憶を蘇らせる。  このとき太い大切な糸が切れてしまったのかもしれない。言われた当初は悲しみと絶望、諦めと複雑な感情が入り交じり、まだ残っていた希望と愛情で持ち直そうともがいた形跡が読み取れる。  それも今となっては消したい記憶だ。消しゴムでこすると文字はきれいに消えていく。  このあたりを境に私の文字は変わっていく。夫に対する記述が減り、息子に対する苦悩が増えてくる。しかし、それも一時のものですぐに無くなった。
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