消してしまう記憶

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 娘が息子と私の相談相手をしてくれていたのだ。お互い娘を挟むことにより、感情のぶつけ合いがなくなった。息子も社会人の姉には素直に話せたのだろう。   受験も志望校に補欠合格し、どうにか入学が決まったので息子の神経過敏も治まった。  それから数年、日記を開くことなく平穏な日々が過ぎた。息子は大学生になり、娘も結婚して家を出た。  私は家事が減ったこともあり、近所のスーパーマーケットでパートを始めた。久しぶりの仕事は疲れても楽しかった。  思い出しながらページをめくるとまた不穏な文字が始まりだす。  ページを滑らせる消しゴムの角がなくなり、腕も随分疲れてきた。  日記の内容は、夫が定年退職をして家でずっといるようになっていた。  年下の私はまだパートで働いていた。家事も近所付き合いも出来ない夫はひたすら家でテレビに守りをされていた。 夫の目を盗んで日記を書いたものだ。さっきより、消しゴムをこする手に力がこもる。  
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