消してしまう記憶

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 数日かけて負の記述を消していった。記憶も一緒に消えてくれたらいい。夫はもう消えてしまったのだ。  残りの人生は自分のために使うのだ。夫は夫なりに私たち家族のために頑張り、愛してくれたのだ。  いい思い出だけを残して、すべて消してしまうのだ。  消しゴムは一つで十分足りた。出てきた消しカスを丸めてゴミ箱に捨てる。  その度、心が軽くなる気がした。  最後の一ページ。丁寧に消しゴムでこすっていく。消しカスを丸めてゴミ箱に投げた。日記もその上から落とした。  窓を開けると近くで鳥の声が聞こえている。  私にも朝が来る。      了
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