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ようやくマンションに到着し、自宅の扉の前で今日何度目か知らないため息を深々と吐き出した。結局、土砂降りになってしまい傘はほとんど意味をなさず、薄手のワイシャツと、スラックスと靴の中まで、全身余すところなくずぶ濡れになってしまった。濡れた手の水気を払い鞄を探って鍵を取り出し、扉を開け中に入り、閉める。しかし閉まらなかった。ドアノブを握った手が、まるで何者かに引っ張られているような感覚があった。何か引っ掛けてしまったのだろうかと振り返った瞬間はじめて、背後に立つ巨大な男の存在に気が付いた。片手で扉を押さえ、黒いフードを目深に被ったその中は窺い知れない。力ではとても敵いそうになかった。得も言われぬ恐怖に、声にならない悲鳴が喉を掠める。それでも何か抵抗を、そう思ったときには既に遅かった。男は自身の身体を私ごと玄関へ押し込み、後ろ手に勢いよく扉を閉めた。
心臓がきつく収縮する。絶望と恐怖が一瞬の内に頭から爪先までを侵食し、全身を硬直させたまま男の次の動きを待つほかなかった。男は、ぶおん、と空を切る音と共に激しく頭を揺らし、被っていたフードを取り去り、持ち上げられた腕に咄嗟に目を閉じ息を止めた。殺される、そう覚悟した。けれど男からの次の反応はなく、私はゆっくりと(恐る恐る、何度も細かい瞬きをした)目を開ければ、見覚えのあるその顔に一気に身体の緊張は解けていった。
「久留須くん………!」
傘もささずにいたのか彼の足元には水たまりが出来るほどに雫が滴り、彼は相変わらず無表情のまま、黄金色の髪からぱたぱたと水滴を垂らして佇んでいた。私は何度も安堵の息を吐き、強く鼓動する心臓を鎮めるのに必死になった。確かに顔見知りではあるけれど、こんな風に突然押し入られては彼だって不審者と何ら変わりない。しかし彼は事のあらましを説明もせず、突然の出来事に混乱する私を他所に、勝手に靴を脱ぐと濡れた身体のまま我が物顔で部屋の奥へと進んだ。
「待ちなさい、久留須くん。どうしてここに………」
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