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「もしよかったら、シャワーを使って。その間に服を乾かしておきますから」
何故だか彼と目を合わせることが出来ずに俯いた。彼は訝しむこともなく、そう、と頷くと、脱ぎかけのジーンズを腰で弛ませたまま場所を教えてもいないバスルームへと消えた。それを見送り、全身の力が一気に抜けてその場に座り込んだ。床に広がった水たまりを、着ていた服がみるみる内に吸い込んでいく。凪いだ心は、常に彼によって荒波に変わる。この感情を、一体なんと表現すればいいのだろうか。今だかつて経験したことのない波立つ感情にこの身が蝕まれていくのは紛れもない事実であり、それから逃れようのないことは本能的に分かっていた。だからこそ、惑うのだ。
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