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彼がシャワーを浴びている間に自身の身体をタオルで拭いて手早く着替えを済ませ、水の跳ねる音を遠くで聞きながら、彼の着替えをどうしようかと考えた。私とではあまりに体格の差があり過ぎて、どの服を選んでも袖を通すことすら叶わないだろう。下着はマンションの下のコンビニで買ってきた。しかし替えの服まではさすがに売っていない。彼の着ていた服が乾くまでにはまだ暫くの時間を要した。とりあえずタオルを二枚と下着だけを持って脱衣所へ行き彼に一声かけたけれど、水の音で聞こえなかったのか中からの返事はなかった。
「……………………」
キッチンの換気扇の下で煙草を吹かし、束の間の休息をなるべく丁寧に味わった。時計を見ると午後九時をまわる頃で、空っぽになった胃がきゅるきゅると心細い鳴き声を漏らした。これから食事を作るのも面倒で、コンビニへ行ったついでに食べるものを買わなかった自分を呪った。
灰皿の底を煙草の先で撫でていると、脱衣所の引き戸の開く音が聞こえて心臓が大きく跳ねた。ぺたりぺたりと湿った足音が近づき、全身を耳にしてそれを待ち受ける。灰皿に添えたままの煙草が長く煙を上げた。足音は背後でぴたりと止まり、無意識に肩をいからせるとその横を太い腕がすり抜けた。
「灰皿、借りていい?」
耳元で囁かれた彼の声に、俯いたまま黙って頷く。彼の体温が想定していたよりもずっと近くにあり、背中に触れる彼の分厚い裸の胸板に私はどうすることもできずに竦みあがった。それきり動く様子のない彼に堪らずゆっくりと振り返れば、鼻先が触れ合うほど近くに彼の顔があった。
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