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表情のない顔が近付く。首筋にあたる無機質でひやりとした感触に肩が跳ねた。分厚いリングをいくつも嵌めた節のしっかりとした指が私の指に絡まり、下着だけを身に着けた彼の湿った肌の温度が生々しく伝わり背筋が粟立った。耳朶から首筋、鎖骨と、彼の唇が順番に落ちていき、存外優しさの見えるそれに私は抵抗する気など微塵も起きずに、されるがまま身を委ねた。これからどのような行為に発展するかなんて、二十数年の人生の中で何度となく経験していて想像に易い。しかし、なぜ彼が私に対してこのような行為に及ぼうとしているのか、それだけが脳裏に引っかかった。暇つぶし、性欲の捌け口、興味本位、可能性としてそれは大いに有り得ることだった。
服の中に差し込まれた彼の手が、ぴたりと止まる。私は天井を見つめながら、黙って次の動きを待った。ゆっくりと上体を起こした彼に自然と目が行く。随分と鍛えあげられ、整えられた躰。まるで精巧に造り上げられた彫刻のようにしなやかで美しい。今までに見たどんなものよりも甘美で清潔で、あまりに魅力的で、彼が首を傾げるその些細な所作でさえ、私を見惚れさせるには充分だった。
「今、なに、考えてる?」
頭上から降ってきた声に視線を寄越すと、前髪を掻き上げた彼が自身の唇を舐めた。舌にはめ込まれたピアスが鈍く光り、首筋に触れた不自然な冷たさはこれだったのかと、そんなことを思った。
「いえ、何も。少しだけ」
考え事を。そう答えている間にも、彼は私の着ていたシャツのボタンを慣れた手付きでひとつずつ外していった。
「考え事って」
彼の前に貧相な身体をさらけ出し、肌が外気に触れて寒気を感じた。彼は再び丹念に舌を這わせ、生ぬるい刺激に息を詰まらせた。
「………どうしてあなたが、私にこんなことをするのか、とか……………」
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