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彼は今日も、早朝のグラウンドでサッカー部に混じり、清潔な汗を光らせている。彼が編入してきてから、それを眺めるのがすっかり日課になってしまった。
「ヒナちゃんせんせー、おはよう」
彼を眺めていた窓から、快活な声と共にひとりの女生徒が顔を覗かせた。確か名前は皆元といって、バレー部に所属している天真爛漫で愛嬌のある少女だ。毎朝教室へ向かう道すがら保健室へ立ち寄り、挨拶を交わすのも既に日課になりつつある。「ヒナちゃん先生」という気さくな呼び名は、月崎雛菊という名前からもじって彼女が付けたものだ。よほど親しみやすいのか、多くの生徒が私を愛称で呼んだ。
「おはようございます、今日も元気ですね」
風に靡くカーテンを端にまとめて窓へ寄れば、皆元は「何を見ていたの」と純真無垢な瞳で問いかけて、その質問に私は一瞬息をつめたけれど、黙秘する必要もないと思い直して、久留須くんを、と正直に答えた。
「よく目立つ子だと思って。待ち合わせ場所なんかにするといいかも知れませんね」
冗談めかしてそう言うと、彼女は控えめな笑みを浮かべた。
「私、同じクラスだよ、久留須くんと。いつも優しいけど、少し気味が悪いよね」
「気味が悪い? どうして」
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