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 吸って、吐く。紫煙がのんびりと空へ向かって立ち上った。学校は不便だ。校内での喫煙は表向き全面禁止となり、喫煙所は校門を出て更に歩かなければならない。殆どの職員は自分の車の中で吸うか、担当教科の準備室を自室替わりにそこで吸っている。保健医の私はまさか保健室で吸うわけにもいかず、自殺防止で立入禁止になった屋上を目指してせっせと階段を上り、無断で扉を開錠したままそれから施錠もせず、眺めのいいこの場所を専用の喫煙所として勝手に利用させて貰っていた。  フェンスに寄りかかりながら、放課後の部活動に精を出す生徒の声を背中で聞き、ゆっくりと紫煙を燻らせた。無理に残業する必要もないのだけれど、部活動が盛んなこの学校は放課後の怪我が多くて定時にさっさと帰ってしまうのも気が咎める。することもなくぼんやりと視線を泳がせていると、不快に耳を汚す甲高い音を立てながら、古く錆付いた屋上の扉が勢いよく開かれた。数少ない不良と呼ばれる生徒たちが非行でもしに来たのだろうかと見つめれば、そこから身体を滑り込ませたのは煙草を咥えた彼だった。 「久留須くん………」     
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