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彼は私と目を合わせても返事をしなかった。無言で横をとおり過ぎ、咥えられた煙草に火を点けて大きく息を吸った。
「なに、煙草でも注意するの? 今更」
言われて初めて、彼が高校生にも関わらず喫煙しているのが自然でないことに気が付いた。彼の太くて長い指が挟む細い煙草はまるで彼の身体の一部みたいで、ちっとも不自然ではなかった。彼が煙を吸い込むのだって、とても様になっていたのだ。
「ああ、いいえ、そんなつもりは………」
ああそう、彼は呟く。そして私の数メートル横で曇った煙を吐き出しながら、悠々とグラウンドを見下ろして、私も無意識にそれに倣った。私のものより香りの強い煙草の煙が目に沁みる。お互い黙して、彼は淡々と煙を吸っては吐きを繰り返し、その間に流れる沈黙は苦痛どころかむしろ私を恍惚とさせた。
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