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好きな人に告白するというのが、昔から苦手だった。
保育園に通っていたころ、ずっと好きだった男の子に毎日のように“けつこんしてください”なんてラブレターを渡していたというのは、小学6年生の時に当人である男の子から言われて知った。その頃にはもう、好きな男に子に告白なんてできなくなっていた。
いつだって男勝りで、そのくせ恋に恋する乙女のように、自分に酔う恋愛しかしないままに学生時代を終えてしまった。
恋は私を可愛くなんてしてくれなかった。その甘酸っぱさと切なさと、息苦しいほどの胸の高鳴りと虚しさばかりを残していった。自分に価値なんて見出せず、告白する勇気はさらになくて。そんな風に大人になったのに。
今の私とはまるで無縁のその私は、もう私の抗生物質からなくなってしまったんだろうか。
「お待たせ」
そう言って私がやってきたのは、こぢんまりとした安居酒屋だった。安かろう不味かろうなんてこともなく、ぼちぼちおいしいその店は、若い女の子スタッフで回っていて、サラリーマンのおっさん達がところ狭しと肩を並べる繁盛店。
「ごめんね、先にやってた」
グラスを軽く持ち上げながら、相変わらずの姿勢の良さと生真面目そうな装いの岡田が応えた。
「今日は、新田さんたちいないんだね」
「うん、今日はいつものとこ行くって」
「あぁ、スロットね」
そう、彼らは元々スロットをいつもやりに行く仲間で、その流れで一緒に飲むようになったのだと聞いている。私の生活とは無縁のその場所。
こうして会うことを重ねていれば、きっとそれが自然であるかのように彼は私に「付き合おう」と言うのだろう。ずっと、そんな人間関係を繰り返してきた。好きな人間と好きなところで好きなことをするというそれだけのことが、永遠とは程遠いのだというのは嫌というほど思い知らされてきた。
私は、その誰とも向き合う気などない。寄り添い、支え合うつもりが。
“好きです”というその言葉は、いつの頃からか“さよなら”に聞こえるようになった。もう友人としての関係を終わりにしようというその言葉。私が唯一伝える“好き”が、まったくちがう意味を孕むからこそ、彼らのそれはどうしようもなく受け入れがたいのだ。そう伝えるすべを私は持たない。分かり合うことのできない彼らとのこの関係を、儚いものだと受け入れなければならないのだろうか。
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