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周りを敵に回しても自分を押し通したくて、でもどこかで譲らなければいけなくて。私がいつかに通り過ぎたところで行き詰っているのだろうことも、声色や空気で何となく感じていた。孤軍奮闘する彼が、頼る相手もいなくてきっと私に連絡をくれているんだろうことも。 「ねぇ」 「ん?」 私は一つ深呼吸する。 「あたしはずっと大好きだから」 そこまで言ったときに、彼が苦笑するのが分かる。それに構わず、私はそのあとの言葉をつづけた。 「和哉の味方がここに一人はいるからさ、大丈夫だよ」 がんばれ、と言おうか迷って、やっぱりやめた。頑張っている人間に、これ以上がんばれはいらない。案の定、また苦笑を漏らしながら吐き出す息に紛れて「なんだそれ」という声が聞こえた。 私の“好き”は、ただのエール。付き合ってください、でも、さよなら、でもない。これが彼の負担になるのなら、私は簡単にこの想いに蓋をする。かんたんな想いじゃない。そんなものじゃないけれど、彼の妨げになるものならそれがたとえ自分であっても許せない。これは、ただのエールだ。 「こんな俺のどこがそんなにいいんだか」 いつかに言われた言葉を、また彼が口にする。あの時、私は「どこがとか分かんないよ」と答えた。好きなところは沢山あっても、そのどれがなくなったとしても、この想いが変わるとは到底思えない。 「あたしの好きな和哉は、“こんな俺”なんかじゃないですー」 だから、そう返す。 いつだって、その声ひとつで簡単に私をほかの人から切り離す。この人に恋をして、ほんの少しだけ一緒にいて、もうずっと昔に別れて。なんどもほかの人に一瞬のように恋をしたけれど。残ったものはいつだって、和哉への想いばかりだった。この想いが自然になくなる日が来るならそれでもいいし、なくならないならそれでもいいかと思うまでに何年か費やして、あとはもうそのまま。 この言葉が、この想いが、彼の背中を押すものになればいいと今日も私は祈りにも似たものを声に出す。伝わらないかもしれないけれど伝わればいい、とただ願うだけ。いつの間に、私たちは空気で会話するようになったのだろう。
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