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* * *
「ちょっと肌寒くなってきたね」
帰り道。隣を歩くいちかが繋いだ手を見て、ちょっと照れたようにはにかむ。
そんな彼女が可愛くて仕方ない。
「もう十月だからな」
文化祭から一ヶ月。両想いになって一ヶ月。恋人同士になって一ヶ月。
一ヶ月は長いのか短いのかわからない。
未だキスもしたことないのは、のんびりなのか焦っているだけなのか。
「ふふっ」
「ん?」
「学ラン、やっぱり似合うよ」
隣を歩くいちかがそんなことを言って微笑む。
一学期はほとんど着てこなかった学ランを、夏服から冬服へ衣替え移行期間も終わった今では、しっかりと着てきていた。
「えらいえらい!」
「……いちかが前に似合うって言ってたから」
皐月は小さく呟きながら、付き合う前。杉先輩と別れ落ち込んでいたいちかを誘い行った遊園地デートのことを思い出していた。
『皐月やっぱり学ラン姿似合ってたからこれからもちゃんと着てきなよ』
たった一言。
それだけでこれからは学ランを着てこようと思えた。我ながら単純である。
「ふふっ。うん! 本当はカーディガン姿も似合ってたんだけど、校則だってあるし。何より学ラン似合ってるもん!」
それに――、と一度言葉を切ったいちかは、一瞬ちらりとこっちを見ると恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……ラフっていうか、そういう格好はふたりだけの時に見たいっていうか……」
「え?」
「う、ううんっ!」
なんでもない! といちかは勢いよく首を横に振る。
一緒に両手も振ったから繋いでいた手が離れてしまった。
「あ……っ」
そのことに気付いたいちかが途端にしょんぼりしたような、残念な顔をする。
そんな彼女がやっぱり可愛くて、可愛すぎて。皐月は無言で手を繋ぎなおした。
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