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並ぶお互いの家の真ん中で、今日も道に転がっていた小石を見つけては、ふたりで転がしながら立ち話。
昔から別れ際って物凄く離れがたくなる。
いちかも同じ気持ちなのだろうか。
自然と足を止めて、決まって小石を探すように視線を落とす。
「樹にパンもらったんだけどさ、めちゃくちゃ美味くてどこのだ? って思ったら樹ん家のシェフ作だった」
「なにそれ~。いいな~」
本当に他愛のない話。いちかが柔らかく笑う。
(これはこれで満足なんだけどな)
皐月は繋いでいるいちかの手に視線を落とした。
(やっぱり小さい、な)
昔はそんなことなかったのに今ではこんなにも違う。
手の大きさ、背だって。もしかしたら想いのスピードだって違うかもしれない。
『皐月とは反対に花咲さんは触ってもらえないことに不安がってるかもしれないよ?』
不意に浮かんだ樹の言葉に皐月は頭を横に振った。
「皐月!?」
「あ、ごめん。なんでもない」
びっくりした~、と笑ういちかに皐月はもう一度ごめんと謝りながら心の中で苦笑する。
(こんなの、都合のいい考えだ)
惑わされちゃいけない、と思いつつ、もしそうだったらと淡い期待を持ってしまう。
もしそうだったら、自分と同じように触れたいと、触れて欲しいと彼女が思っていたとしたら……。
(でももし違ったら。嫌な顔されたら立ち直れる気がしない)
小さくため息をついたとき、ガチャッという音がいちかの家の方から聞こえ顔を向けると、ドアが開き「あらぁ?」というゆったりした声を発した主が立っていた。
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