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「お帰りなさい。帰ってたのね」
「お、お母さん!?」
――あ。
パッと離れてしまった手に皐月は思わず声が漏れそうになる。
見ればいちかも皐月と同じ様な顔で離れた手を見たが、すぐに母へと顔を向け直した。
「か、買い物?」
「そうよ~。今日はお肉特売の日だからすき焼きにしようと思って」
言いながらいちかの母はこっちへ歩いてくる。
「そ、そっか」
「って、そんなことより。こんなところで話してると風邪引くわよ~」
言うとチラリ、皐月へ視線を向けた。
(なんだ?)
皐月は一応口角を少し上げ愛想笑いを返す。
するといちかの母もにっこりと口角を上げた。
「ほら、いちか。皐月くんも。どうせ話すなら家の中で話しなさい」
「え」
「え!? お母さん!?」
突然の提案にいちかと皐月は目を見開く。
しかしいちかの母はそんなふたりを気にすることなく話を続けた。
「お母さん買い物行くし。今日はちょっと時間かかっちゃいそうなのよね。最近物騒だし女の子一人で留守番させるのも心配じゃない? ねえ? 皐月くん」
「は、はい……でも」
「いつもはそんなこと言わないでしょ!?」
「あら、いつも本当は心配してるのよ? ほら、日も落ちて暗くなってきたし。男の子が一緒にいてくれたらお母さん安心して買い物行けるわ~。それにお母さん、皐月くんのこと信じてる」
「なっ」
「…………」
その言葉にいちかの顔はじわじわと赤くなっていく。
皐月はというと思わぬ発言により半開き状態になっていた口を慌てて引き締め、背筋を伸ばした。
「は、はいっ!」
「ふふっ。おばさん、皐月くんのこと好きよ」
「お母さんっ!!」
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