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――こんなにも、自分のことを想ってくれる人は他にいるのだろうか。
頭を下げる皐月の姿に、いちかの胸はいっぱいになり、満たされ、溢れ出してしまいそうな気持は涙となって目尻をうっすらと濡らす。
「……お願い、します」
少し、語尾が掠れてしまった。
下げた頭の上から暫くするとお父さんのふっと抜けるような息を吐いた音が落ちてくる。
「顔をあげなさい」
その言葉に従い、ゆっくり上げると見えた、温かい優しいお父さんの顔。
「ふたりがどれだけ真剣なのかわかったよ」
「お父さん……」
「少し、駄々をこねてみたくなっただけなんだ」
眉を下げ微笑むと、皐月へと視線が移る。
「皐月くん」
「はい」
「僕はね、きみのことを息子のように思ってる。高嶺さん達に負けないくらいに、ね」
「おじさん」
「そんなきみが娘の選んだ人だなんてこれほど嬉しいことはないよ。ただ、いちかは私にとって天使のような娘なんだ。生意気なこと言うようになってもね」
お父さん? なんてわざとらしくいちかが睨めば「ほんとのことだろ?」といたずらな笑みを返され、先ほどまで硬かった空気が紐を解くように柔らかくなる。
その雰囲気のまま、お父さんは再び皐月へと顔を向けた。
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