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夜道をふたりで歩く。
あの後三人で隣の家に戻り、賑やかなホームパーティーが再開された。今では宴会という方が何となくニュアンス的に合う騒ぎようと酔っ払いようである。
そんな羽目を外しだした大人たちによって、なくなったツマミの買い出しを命じられたのであった。
「ううん。結婚の挨拶だったらあれだけじゃ済まなかったかも」
「いや、笑い事じゃないから」
クスクスと肩を揺らすいちかとは反対に、皐月は想像したのかゾッと首を竦ませる。
近所にあるコンビニは家からとても近い距離にあるから、ふたりはゆっくり、ゆっくりと足を前に出して時間稼ぎ。
いちかと皐月の手はしっかりと結ばれていた。
「でもいちかが先に言うんだもんな」
「ん?」
「やっぱりいちかは格好いいよ」
星を眺め呟く皐月の横顔に、いちかは頬を染める。
『お父さん。私、皐月のことが好きです』
最初に切り出したのはいちか。けれど……。
「皐月が言ってくれたから」
「え?」
「あのとき、公園で――」
帰る前に言っておきたかったと微笑んでいちかの手を引いた皐月。
好きだと言ってくれて、ずっと一緒にいたいと思っていると伝えてくれた、そんな彼に……。
『ねぇ、皐月。何だかプロポーズみたいだよ?』
照れたいちかが呟いて、その言葉に一度瞬きをした皐月は――、
『同じことだから、いいんだよ』
そう言ってそっぽを向いた。
「嬉しかったから。すごく」
「…………」
にしし、と笑って言うと、皐月が急激に温度を上げだした自分の顔を腕で隠す。
あのときと同じ髪から覗いた耳が真っ赤で。皐月の言葉が勇気をくれた。
だからもう一度、勇気を貰おう。
いちかは目を伏せる。
学校。教室で一緒に食べるお昼の時間。朝、登校途中に買った調理パン。
空気を目一杯吸い込むと、静かに吐き出した。
そしてクイっと顔を上げて。
「皐月っ」
「ん~?」
「お弁当、作っても、いいかなっ」
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