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「よし! 頑張るか!」
「……さっきまでは頑張ってなかったの?」
「……うっ!」
若葉の言葉が容赦なく突き刺さる。
「ん~。最初はやる気満々で腕まくりなんかしちゃってはみたんだけどね~」
「面倒くさくなって微睡んでた、とか?」
「いたたたたた……」
本当はどこかから見ていたのではないかと疑ってしまうほどの的中率に、樹は胸を押さえ大袈裟に蹲る。
若葉の呆れたような眼差しにへへっ、と取り敢えず笑ってみたけれど、あまり効果はなさそうだ。
(まあ、河合さんだしなあ)
正直若葉はあまり反応がいい方ではない。……いや。それは語弊があるか。冗談も言うしバカなことを言っても乗っかてくれる器量も持っている。
楽しい人だとは思うのだが、何というかどことなく感じる外面感。
それは樹自身に対してだけではなく、誰に対しても、だ。特に男子には当たりが厳しいとすら感じることも偶にある。
例外はいちかといるときだ。又は彼女に関係があるとき。相当好きなのだろう。
(あ、あとは趣味の話のとき……か?)
空き教室で皐月の壁ドンの練習に付き合ったとき。それと文化祭。若葉の熱血指導っぷりには凄まじいものがあった。
こんな彼女もいるのだと少し意外に思ったことを覚えている。
だからこれも意外だった。
「どこ?」
「え?」
「どこがわかんないの?」
樹がいる席の前にある椅子を引っ張って若葉が座ったのである。
「このままじゃ一生帰れなさそうだから、教えてあげる」
隠し持っていたチョコレートの包みを開けながら。
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