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床に座ったいちかがベッドに頬杖をつきニコッと笑う。
「おはよう」
「…………」
その可愛い笑顔に皐月は物凄い罪悪感に襲われた。
文化祭。想いが通じ合った皐月といちかは晴れて恋人同士になったわけなのだが、その後まったくと言っていいほどふたりの仲は何も進展していない。
原因はわかっている。
「いちか、何で俺の部屋にいるの?」
皐月はのっそりと起き上がりながら頭を掻く。内心は大慌てだ。
「皐月と一緒に登校したいなあ、と思って家の前でうろうろしてたらちょうどおばさんが出てきてね。入れてもらったの」
「そっか……」
「うん!」
いちかがにこにこと無邪気な笑顔で見上げてくる。
(か、かわっ)
皐月は思わず頭を抱えた。
朝から。それもまだベッドにいる状態でのその可愛さは流石にやばい。
じりじりとせり上がってくる欲望と必死に戦う。
「皐月?」
「ん?」
「……もしかして勝手に部屋に入っちゃったの怒ってる?」
眉を下げ、途端に不安げな顔を覗かせる彼女に胸がきゅん! とやられてしまうのは仕方がないことだろう。
恋人同士になってからというもの、いちかの可愛らしさに磨きがかかった。
本人が自覚しているのかはわからないが、明らかに無防備になったと思う。
しっかり者であることには変わりないのだが、ふたりでいるときは何となく子供っぽくなるというか……、心許してくれているという感じだ。
これが恋人同士の距離感かと嬉しくなる一方で皐月は困った事態に陥っていた。
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