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「それってさ、どういう意味?」
「そのまんまの意味」
ぽきん。お菓子が砕ける。
『損な役回りだね』
文化祭の時も同じようなことを言われた。
あれはいちかのことを諦めそうになっていた皐月の背中を押したときのことだ。
どこから聞いていたのだろう。偶然居合わせた若葉に言われた言葉。
「あ、もしかして気分悪くさせた?」
「いや、……まぁ。あれだけため息つかれれば気になるけど」
「ふふ。悪い意味じゃないよー。……別にいい意味でもないけど」
「…………」
若葉は何でもないことのように口にする。
樹の眉はますます中心に向かって皺を刻んだ。
そんな彼の顔に若葉はふう、と小さく息を吐く。
「本当にそのまんまの意味だよ。他意はない」
「……もしかして、バカにされてる?」
お菓子を咥えたままの彼女と目が合った。
若葉は少し目を見開いていて、次第に口元がふっと笑う。
ぽきん、噛み砕いて、他意はないと彼女は言うけれど、他意だらけだとしか思えない。
「何でそう思うの?」
「曖昧に誤魔化さなくていいよ。でも違うから」
彼女は勘違いをしているんだ。
『皐月が諦めるなら、俺が貰ってもいいんだよね』
あんな告白めいた言葉を聞いたから、勘違いをしているだけなんだ。
「花咲さんのことは好きだよ。あの二人みたいに生まれたときから一緒ってわけじゃないけど、俺も幼馴染なんだ。花咲さんから聞いてるでしょ?」
小学校上がる前からの付き合いだ。
皐月が日本に帰ってくる前までは少し距離はあったけれど、樹にとって皐月は勿論。いちかのことも特別に思っている。
若葉はそのことをわかっていないから、見え方が変わってしまっているんだ。
「だから河合さんが思ってるような、そんな気持ちは花咲さんに対して持ってな――」
「――持ってるから」
言い終わる前に若葉の声が被さる。
風で顔にかかった髪なんか気にせずに、真っ直ぐな瞳が向いていた。
「持ってるから、他意があるように聞こえるし、バカにされてるって思うんじゃないの?」
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