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若葉の言葉は心に刺さる。
『損な役回りだね』
『あれ、河合さんいたの?』
『偶然通りかかったら面白そうな話が聞こえてきたもんで』
『あ~。立ち聞きしてたんだあ~』
いけないんだ~、なんておちゃらけて返した。
『……いいの?』
『何が~?』
『……別に』
若葉がどういうつもりで言ったのかわからない。けれど間違いなくあの時が境目だった。
いちかに対する気持ちの境目だった。
風が吹く。
気が付けば硬くなっていた表情筋を緩め、樹は窓の外を眺めた。
「俺の初恋、皐月なんだけどさ~」
言って、視線を若葉に向けると、パチパチと瞬きを繰り返していて、何となくの満足感に浸る。
対して、衝撃告白に動揺しているのだろう。若葉は何やら眼鏡に触ったり、髪を耳にかけ直したりと挙動不審だ。
「へ、へー。それは初耳」
「まぁ、ね。花咲さんも知らないと思うし」
「へー……」
「流石に皐月も男に告白されたことがある、なんて言えないだろうから」
「告白したんだー」
「皐月のこと、女の子だと思ってたんだよね~……って、何でそんなにニヤニヤしてるの?」
「あ、お気になさらず」
続けて続けて、と一度咳払いをしてから促されたので、樹は首を傾げながら頷く。
(まぁ、恥ずかしい間違いだもんな。そりゃ笑うか)
気を取り直し、樹は懐かしい過去に目を細めた。
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