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「皐月のことは好きだったけど、花咲さんのことはずっと苦手だったな。だっていっつも俺が悪さしないか目、光らせてくるんだもん。俺が悪いんだけど~」
「ふふっ。いちかも優しいからね」
「……そうなんだよ、な」
優しくて責任感が強い、しっかり者。彼女の瞳はいつも真っ直ぐで。
それが苦手だった。
自分にないものばかり持っている正反対の女の子。
「皐月がイギリスに引っ越すことになって、大好きな親友の為に花咲さんのこと、逐一報告するからなんて面倒なこと言っちゃって」
苦手な女の子に自分から関わることになった。
その頃には樹の子供っぽいいたずらっ子はもうどこかに行っていて、今と同じ雰囲気になっていた。
苦手な子にもニコニコと話しかけることもできる。
そんな樹をいちかがちょっぴり眉を寄せて様子を窺っていたことに、彼は気が付いていた。
「傍にいると見えてきた彼女はしっかり者なんだけど、偶に幼くて。強いんだけど完璧じゃなくて、こんな一面もあるんだって驚いたこともあった」
でもやっぱり優しくて責任感が強い、しっかり者。彼女の瞳はいつも真っ直ぐに物事を見ている。
中学生になった彼女は、腕を振り上げ泥だらけになっても追いかけてきたあの頃のイメージとはかけ離れて、樹の目にも『女の子』に映った。
思い出の中で友達の輪の中にいる彼女が笑う。
樹は穏やかな気持ちでその光景を見送った。
「やっぱり今でも花咲さんのことはちょっと苦手かな。本当に何でもないんだ。俺は皐月が大好きで、花咲さんは苦手だけど嫌いになれない女の子。それだけ。……でも」
付けた蕾を育てるも自由。花を咲かせるも自由。魔法のステッキを取り出して、色を変えるのも自由。
「あの時の言葉の半分は本気だったよ」
それじゃ駄目かな? 樹は眉を下げて若葉に向いた。
若葉は指に付いたチョコレートを舐めとって、
「やっぱり損な性格してる」
ん、とキャンディーの棒を差し出した。
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