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「……皐月?」
「あ、う、ううん。怒ってない怒ってない」
ぶんぶんと首を横に振ってみせると、いちかの沈んだ顔がぱあっと明るくなる。
「よかった! あ。そろそろ支度しなくちゃ遅刻しちゃうね。私、下にいるから」
いちかはこれまた可愛い笑顔でばいばい、と小さく手を振って部屋を出ていった。
とんとん、とんとん、と階段を下りる音がする。
「だあーっ!」
皐月は再びベッドに身体を横たわらせた。
(可愛すぎるだろ~~)
ぽすんと枕に顔を押し付け、行き場のない感情をバタバタと揺らした手足で発散する。
一緒に登校したかったから家の前で様子を窺っていたっていうのもなんだか健気で可愛いし、ニコニコしてたと思ったらしょんぼりしてみたり……。
可愛い。めっちゃ可愛い! と皐月の興奮度は上がる。
腕を引っ張って、ベッドに引きずり込んだらどんな反応をしただろう。
そこまで考えて皐月はため息を溢した。
「そんなことできたら、悩まないし」
独り言が空気になって静かな部屋の隅に消えていく。
恋人になったからといってそんな易々と触れられるなんてナンパ野郎のチャラ男くらいなものだ。
実際は付き合う前より慎重になっている自分がいる。
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