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あの日の彼女を思い出し、いちかはふふっと微笑む。
「私も、梨々ちゃんとこんなに仲良くなれるなんて思ってなかった」
梨々は一見誤解されやすい言い回しをするが、そもそもあの宣戦布告のような言葉もわざわざ言いに来る必要なんてなかったのである。それを彼女はわざわざ言いに来た。
梨々は気を遣ってあの宣戦布告もどきを言いに来たのだ。
そうだと気が付いたのは顔を逸らした後、だから……、と言い難そうに口を尖らせて言葉を落としたから。
文化祭準備期間。本心だったけれど嫌いと言ってごめんと謝りに来た彼女の様子とあまりにも似ていたから。
『見取さん』
『……なによ』
『見取さんのこと、梨々ちゃんって呼んでもいい?』
『……っ、勝手にすればっ!』
梨々は目を丸くして、やっぱり顔を逸らした。
(お弁当を持ってきたときは流石にちょっとびっくりしたけど、ね)
梨々も入れて? と可愛らしく小首を傾げた彼女を思い出す。同時、皐月にことごとくちょっかいをかける様子を浮かべ、いちかはムッと唇を尖らせた。
「いちか?」
「仲良くなれたのは嬉しかったけど、皐月はあんまりなっちゃダメ」
「は?」
いちかの言葉に皐月はポカンと口を開ける。
そのあと数回視線を左右にうろうろさせると、顔を赤くさせ、片手で開いたままのそれを押さえた。
「……わかった」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……っ、やっぱりいいです!」
「えぇ!?」
自分が言った発言にじわじわと羞恥に追い立てられたいちかは両手で顔を覆う。
皐月は何やら不満そうだけど、この話はここまでにしてもらおう。うん。
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