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「は、話が逸れたけどっ」
「いちか~」
「あ、有栖川くんも皐月と一緒にいたそうだったしっ」
「……どうでもいい」
どうやら拗ねてしまったみたいだ。
皐月がお弁当を抱え、そっぽを向いてしまった。
いちかは苦笑いで向けられた背中を人差し指でつつく。
「皐月く~ん」
「お昼の件はいちかに任せるよ」
カチャカチャッという箸を仕舞う音に、見えないけれど皐月がお弁当を食べ終えたことが窺えた。
「ほんとに嫌じゃない?」
梨々のこともある。
「私、皐月が無理するのは絶対嫌なの。だから言って?」
「……じゃあ」
くるりと振り向いて、子犬のような可愛らしいきゅるんとした瞳が上目遣いでいちかを映した。
「唐揚げ」
「へ?」
「唐揚げ食べたい」
自分の分を食べ終えて、お腹は満たされているはずなのに、皐月はいちかのお弁当に残っている唐揚げを指さしてそんなことを言う。
いちかは首を傾げつつもお弁当を差し出そうとすると、待ったをかけられた。
「食べさせて?」
「えっ!」
「あーん」
慌てるいちかをそのままに、皐月は無防備に目を閉じて待っている。
どうしたらいいか。いちかがワタワタと意味なく両手を振っていると、再び「あーん」という皐月の催促が飛んできて、いちかは真っ赤な顔をしたまま唇をキュッと噛み、覚悟を決めると、恐る恐る唐揚げを摘まみ、皐月の口元へ近づけた。
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