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「あ、あ~ん……」
「あー……」
ぱくん。皐月の口が閉じて、挟まれた箸をドキドキした気持ちでするりと抜く。
するとちょっと膨れた頬を動かして、皐月はニコニコと笑った。
「ん。ん。美味い」
「揚げただけだよ……」
「いいの。いちかが揚げたことに意味があるのっ!」
満足げに微笑まれて、いちかの胸はきゅうぅっと締め付けられる。
(あーんってしちゃった。な、なんか。なんか、なんか!)
心の中でキャー、なんて呟いて、熱くなった頬を両手で押さえる。
動揺する自分とは反対に皐月は余裕そうだ。
それが何となく、恥ずかしさと照れくささが入り混じってごっちゃになったいちかには気に入らない。
「もうっ!」
「うわっ!」
皐月の胸をグーにした両手でぽかぽかと叩く。
皐月は後ろに手をつき、されるがままになっていた。
傍から見ればカップル同士のイチャイチャ風景。皐月は幸せ真っ只中。
そんなとき。
「皐月~! 聞いてよ! 呼び出しくらった英語の! 酷いんだよ! 行ったら――……って。あれ?」
「ひゅ~。お熱いね。お二人さん!」
「……もしかしてやっちゃった? 河合さん。もしかして俺、タイミング激マズだった? やっちゃった?」
空気の読めない樹の登場に幸せタイム終了。
邪魔された皐月の怒りを買ったのではないかと、樹はささっと若葉の陰に隠れた。
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