甘い日常

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 樹は完全に若葉のオモチャと化してしまったようだ。  ちょっとだけ不憫に思えてこないこともない。  いちかは苦笑いを溢した。  しかし若葉の弄り攻撃は続く。 「燃え上がった先生はどんなテスト問題を用意してるんだろうね~。再テストは今日の放課後だとか」 「課題出した次の日って酷くない? 先生嫌がらせだよね? そうだよね~……うぅ」 「いやいや。……クッ。先生だって本来しなくてもいい労働をしてるんだよ? 嫌がらせ、なわけない、よ。ぶふっ。きっと、夜通しで……んん、作成したんだよ。徹夜だよ? 有栖川くんだけの為に。先生の愛を、受け止めて、あ、げな、くちゃ……ぶはぁ! もうダメ! あっはははー!」 「うわーーーーんっ!」  皐月とふたりきり。先程まではどちらかと言えば静かだった踊り場が二人の更に大きくなった反応によって一気に騒がしくなる。  いちかの両手は気付けばその場を宥めるように胸の前で揺れていた。 「そ、そういえば、若葉? 無事漫画は借りられたの?」  いちかの一言にぴたっ。若葉の笑い声が止まる。  つられたのだろうか。樹もぴたっと泣きまねを()めた。 「い、いちかぁ」 「ひゃっ! わ、若葉?」  タックルするような勢いで抱き着いてきた若葉の身体を受け止める。  いちかの腕の中、ひょっこり覗かせた若葉の表情は悲しみに染まっていた。
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