甘い日常

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「借りられなかった。借りられなかったよ~」 「よしよし」  若葉の話では漫画本の受け渡し現場まで立ち会ったというのに、貸し出しはまだできないと司書さんに断られてしまったらしい。  貸し出すためにはまず、学校名が書かれたシールを貼り付けたり、専用のバーコードを付けたりといろいろやらなければならないことがあるとのことだった。  当然図書委員の若葉は図書室にある本たちがそうして置かれていることを知っていたのだが、あまりの嬉しさにすっかり頭から抜け落ちてしまっていたらしい。  ぎゅぅっと背中に回った若葉の腕が縋るようにしがみついてくる。  そんな彼女の頭をいちかは優しく優しく撫でていた。 「ぬかったぁ。完璧にぬかってたぁあ」 「また借りに行けばいいじゃん」 「でも一番乗りじゃないかも。一番乗りがよかったのに。うぅ~っ。とりあえずもう一回有栖川くん苛めてきていい?」 「え……」 「ちょっ! もしかして俺で憂さ晴らししてたの!?」 「なにか?」 「ひーどーいー!」  若葉はいちかの胸に身体を預け、樹はその横に座って二人は会話をしている。 (なんか居心地が悪い)  困った、といちかが視線を斜め上に向ける。  すると突然、身体がグイッと後ろに引き寄せられた。 「きゃっ」 「あっ!」  若葉とほぼ同時に声が漏れる。  若葉の腕が背中から離れ、代わりに脇腹からニョキッと生えた腕がいちかのお腹に絡みつき、ぽすんと当たった何かに包み込まれた。
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