甘い日常

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「なんだよっ」  半分樹にあたるような形でその指を払い、皐月は気を取り直して若葉へと向き直った。 「でも河合さん。俺、いちかの為だったら禿げてもいいし」  皐月は更にいちかが痛がらない程度にぎゅっと回した腕に力を入れ、戦いを挑む。  しかしその挑発的な瞳を若葉はフッと笑ってかわした。 「幼馴染くんが禿げるのは幼馴染くんの勝手だけど、それをいちかのせいにしないでくださる? ていうか禿げた幼馴染くんとか。……ご愁傷様」 「ちょっ! 今何を想像したんだよ! 別れないからな!」 「えー。それを決めるのは幼馴染くんじゃないしー」  いちかだしー、と憎たらしい言葉を吐きまくる若葉に皐月は歯を食いしばる。  想像だけでもいちかと別れることとか考えたくないし、禿げる自分も想像したくない!  彼女の為なら禿げてもいいと思ったばかりだが、そのせいで別れる危険性が上がるなら話は別だ。何としても髪の毛は死ぬまで死守してやる!  そんなピリピリとした皐月の肩が再び樹の人差し指に突かれる。 「皐月」 「なんだよ」 「いいの?」 「だから何がだよっ」  そう言って漸く皐月は若葉から樹へ視線を移した。  すると見えた樹の顔は少しだけ困ったように苦笑している。  不思議に思い視線で問いかけると、先程肩を突いていた人差し指が斜め下を指さした。 「さっきからこんな感じなんだけど」 「い、いちか!?」  慌てて身体を離すと、プシューと音を立てて湯気が上がりそうなほど顔を真っ赤に染めたいちかがそこにいた。
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