441人が本棚に入れています
本棚に追加
皐月はゆっくりと起き上がり、洗面台へと向かった。
顔を洗い、タオルで拭う。
「なっさけない顔……」
鏡に映った自分に皐月は苦笑した。
恋人としての仲が進展しない原因は一歩進む勇気がない自分だということをわかっている。
制服に着替え階段を下りる。
リビングに入るとソファーに座ったいちかが気付き、ニコッと笑った。
* * *
「ナンパ野郎のチャラ男、ね~」
樹がパンをかじりながらふにゃふにゃと呟く。
昼休み。五つくっつけた机は半分が空席。
付き合いだしてからいちかと一緒に昼食をとるようになった。
本当はふたりきりが良かったんだけど、何故か当たり前のようにくっついてきたお邪魔虫が数人。
そのうちの一人は目の前に座っている樹。残りは今いちかと一緒に自販機にジュースを買いに行っている若葉と梨々だった。
「じゃあ俺、ナンパ野郎のチャラ男かもしれない」
さらりと言った樹の言葉に皐月は眉を寄せる。
いちか達がいないうちにと、皐月は悩みを樹に吐露していた。
毎日のように繰り返されるいちかとの甘い夢。もうそろそろ限界だ。
触れる勇気もないくせに触りたい欲が抑えられない。
このままじゃまずい、ということで追い詰められた皐月はとうとう樹に相談するまでに至ってしまった訳なのだが、あろうことか樹はナンパ野郎、チャラ男側に付いてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!