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「…………」
「ただでさえ幼馴染なんだからさあ~。付き合ってから今までと何にも変わらなかったら『あれ? 私って皐月と付き合ってるんだよね? 夢じゃないよね?』ってなるよ。それで『あれ? なんか最近、皐月じゃなくて有栖川くんにドキッとしちゃうかも』って――わっ! ごめん! 冗談! 冗談だから!」
途中から物凄いイラッときたので、机の上に置いてあったまだ手付かずのパンを横取りしてやった。
(うわ。何これ。めちゃくちゃウマッ)
焼き立てじゃないのに外はカリッと中はふわっとしていて、一体どこの店で買ってきたのだろう。そう思ったとき、目の前に座っている樹から「あ~。シェフの、シェフのパンがあ」という悲しみに打ちひしがれた声が聞こえてきた。
(なんだ。樹の家にいるお抱えシェフの作品か)
最後の一口もお腹の中へ綺麗に納めると、とうとう樹の泣き真似が始まる。
くすん、くすん、と煩いので、皐月は自分の分のパンを差し出した。勿論こっちはどこかのシェフ作なんかではなく、そこら辺で買ったコンビニパンである。
つまり樹からしたら一万貸したら百円で返ってきたみたいなものだと思うが(いや、はっきりした相場はわからないけど)、差し出されたパンに嬉しそうに顔を上げた。
「いやでも今時珍しいよ。こんなにピュアなカップルは。清いお付き合いをしてるカップルは。お母さんなんだか安心したよ」
パンを受け取り、早速袋を開けている。
「…………」
「え? ちょっと何で視線逸らすの? え、キス以前の話だよね? それより先の話じゃないよね? ね? え? 皐月!?」
――煩い。その通りだよ! だから何回も繰り返すな。
皐月は心の中で悪態をつく。
その後すぐいちか達が戻ってきたのでこの話はここまでで流れた。
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